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声優統計

声優統計は声優を科学します。

TCVV白書 vol.14 レビュー

コミックマーケット81で頒布されたTCVV(声優はVisualに出るな!会議:http://www.tcvv.org/)の新刊・TCVV白書 vol.14のレビューを行う。
本稿で主に扱うのは3章:「TCVV短観と専門雑誌における掲載率の相関」である。

記事の主張

新刊の目玉記事でもある3章の研究記事の論旨は以下の通りだ。

TCVV短観と呼ばれる独自の統計量(1章で論じられている)と、専門雑誌における掲載率(2章で論じられている)の相関関係を調べた。
スピアマンの順位相関係数を算出したところ、その値は0.27であり、弱い相関〜相関無し、と見なすことが出来る。
つまり、出演数と声優雑誌における掲載率には関係が無さそうである。
その理由として、声優誌には「今スグ売りたい人」が載っている広告媒体であるのに対してTCVV短観が現状出演数が多い旬の声優を表す指標であることを指摘している。

統計学的問題点

はっきりいってこれは統計的詐術である。
このような状況下で順序統計量を用いるべきではない。

その前に登場する統計量の定義を簡単に述べておこう。
TCVV短観は「TVアニメのレギュラー数を(直近クールほど大きな重みをつけて)4クール分(加重)平均した値」である。
「専門雑誌の掲載率」とは声優グランプリにおける「純グラビアページ」の中で、個人が占有する割合。複数人掲載の場合は人数で除算。

さて、統計的素養のある皆さんならもうお分かりだろう。
順位相関係数を計算する対象であるランキングは、上述した二つの「連続値」の統計量から計算された値なのだ。
つまり、元々の統計量にあった順位間の距離の情報が落とされた状態で相関関係を調べているのだ。
それで「相関があるとは言えない」というのは詐術と言われても仕方が無い。

順位相関係数は、元々順序統計量として得られ、それ以上どうしようもないデータをなんとかして活用するために考えだされたものだ。
例えば、一昔前に流行った「声優140人ソート」の結果「のみ」を使って何か述べたい、という場合、順位相関係数は有力な選択肢だ。
だが、この局面はそうではない。

さらに、p.15に載っているデータを確認すると詐術っぽさはさらに深まる。
掲載率順位12〜14位に注目して欲しい。順に片岡あづさ、原紗友里、阿澄佳奈とされている。
勘のいい方は分かるだろう、これら3人はなんとかというユニットでまとまった掲載をされたものを、便宜的に順位を与えたものと考えられる*1
5章でなんか都合のいい事を言ってる裏でこの順位付けは、意図的に相関係数を下げたと見られても仕方が無い。

ちょっと上の脚注で述べたように、連続値の全体データが得られていないので推測の域を出ないが、おそらく元の連続値で相関分析を行えばもう少し高い相関が得られるはずである。

その他の問題点

当該記事で指摘されているように、一誌からのデータというのは偏りがあり適切ではない。
私見だが最近だと声優グランプリより声優アニメディアやVoice Newtypeの方がアニメ番組のタイアップ記事をグラビア付きで組む事が多いように感じる。
その点でも調査範囲を広げることは求められる。

また、TCVV短観と雑誌掲載率の相関が無かったとしても、個々の統計量が「TVアニメ出演数」や「ビジュアル活動」を表す適切な指標でなかった場合、当該記事のような主張を導く事はできない。
TCVV短観は継続的に算出されており、「間違った」指標だとは思わないが正確な指標と言えるかどうかは疑問が多く、その一端を後述する。

加えて、これは単純な疑問なのだが。
TCVV的に、声優の出演数と声優雑誌の掲載率に相関が「無い」ことを示せたとして、それがTCVVの主張をどのようにサポートするのだろうか。
それは、TCVV的「声優の本分で無い活動」が、「声優の本分」であるところのアニメ出演に影響を「与えない」ことを示すことになり、TCVVの主張する「声優のビジュアル化による力量不足」という根底を否定することになるのではないだろうか。

私見

上でも書いたが、連続値であれば相関は得られると私は考えている。
それは、TCVVが主張するような「CDやライブの販促記事」も声優雑誌には多いが、同じ販促でも「アニメ番組」の販促記事も十分に含まれており、一部の「勝ち組」と固定の連載(それは一部重複する)を除けば、何のタイアップも無しに雑誌に取り上がられる事はむしろ難しい、という現状があると考えているからだ(コエトーークvol.3, スタジオしもばやし, C81 も参照のこと。)
従って、声優雑誌の露出は出演数との強い相関を持つ分布と、まったく独立な分布との重ね合わせであると考えるのが妥当である。
後者はノイズとして振る舞うため、そこそこの相関が得られると予想される。

また、声優雑誌にアニメ番組タイアップで露出する場合は、当該番組内での「重要度」が大きな影響を及ぼすと考えられる。大雑把に言えば、キャスト順だ。
主役、準主役、サブレギュラーといった重み付けがTCVV短観に含まれていない以上、そこで相関が下がる要因は存在する。
「TVアニメシーンにおける声優の存在感」を示すために重み付けがどの程度有効かは議論の余地はあるが、そのような統計量についても検討する必要はある。

良い点

そもそもこういうレビューを書ける叩き台としてフォーマットがきちんとしているという点は現状の声優批評シーンにおいては評価されるべきだろう。
TCVVは継続して調査・発表を続けており、検証可能性を確保していることは声優統計も見習うべきだろう。
調査方法やデータ入手元も概ねに明らかにされており、上ではサボっているが、自力で追試することは理論上可能である。
強いて言えば、「純グラビアページ」の定義をもう少し丁寧に述べて欲しいところだ。

まとめ

目に見えて穴があったのでdisってみた。