声優統計

声優統計は声優を科学します。

(追記あり)チケットの価格別販売ができないのはJASRACのせいじゃないと思います

08/25追記:

みなさまコメントありがとうございます。
特に、実際に「対価種別の平均」で入場料が算出されていると思われる情報(http://blog.185usk.com/2016/08/post-582195.htm)、大変ありがたいです。
というか、実態についてまったく調査をしなかった部分に関しては、完全に私の落ち度であり怠慢です。
他人のことを言えないですね。


とはいえ、規定を読むと私のように解釈できる余地は十分あるし(私の)常識に照らして私の解釈が正しいという意見は変わらないという部分はあります。
この部分については、規定の解釈が誤ってるのか、JASRACの運用が規定と乖離しているのか、その辺はよく分かりません。
後者なら訴えれば勝てそうですけど、まぁ誰もやらないし、JASRACと話し合って改善する方がいいですしね。
どっちにしろ、実態の話をしているのに規定しか読んでない私の誤りだと認識しています。


規定しか読まずに自分が誤っていると思っている相手について攻撃的な言葉を用いてしまったことに関しては大変申し訳ありませんでした。
消すのは良くないという自分ルールに乗っ取り残しておきますが、ここに追記で謝罪して、謂れの無い部分については打ち消し線を打つ事で取り消したとご理解いただきたいです。


(以下本文)


みなさんこんばんは、声優統計の声優担当、@MagnesiumRibbonです。


今日はここ数日ネットを騒がせている"#転売NO"声明
www.tenbai-no.jp

と、その周辺に雑多に存在するいくつかの論点のうち、標題の

「高い金出しても行きたいorいい席で見たい人のためにはチケットの値段に興行主が傾斜をつければいい話なのだが、JASRACの支払う使用料の問題でそれは現実的ではない」

という主張について、そのおかしさを指摘する記事を書こうと思います。


使用料算出方法のハナシ

この話の出所は、おそらくこのチケットストリートの社長を名乗る人物の書いたブログ記事です。
ここ数日Twitterにも何度も投稿されています。

ashikagunso.blog.jp

まぁまずはご一読ください。


…どこがおかしいか分かりましたか?
この記事の主張は、少量の高額プレミアムチケットを設定した場合、演奏権料は高額チケットと通常チケットの「平均」を元に算出されるため、
高額チケットから得られる追加収益より使用料の増分の方が多くて赤字になる、という話です。


まず常識的に考えてこんなことがあるわけがない、という風にまずは考えられないとダメですよね。
このブログの著者自身が続きのエントリ
ashikagunso.blog.jp
で指摘しているように、会場隅にボロボロの椅子を置いて1円チケットとして販売すれば使用料は半分に出来ちゃうわけですから。


では、この著者が根拠したページになんと書いてあるのか見てみましょう。
http://www.jasrac.or.jp/info/event/pop.html
リンクされているのはここですが、記事の書きぶりからして、おそらくこのページにあるボタンから、
使用料計算シミュレーション(演奏会など)
このシミュレータを使用したのでしょう。
確かにこのページには

入場料にS席、A席等、等級がある場合は、平均額を入力してください。

http://www.jasrac.or.jp/info/create/calculation/concert/event.php?type=1

と書いてあります。


ところがどっこい、そのボタンの下にある
http://www.jasrac.or.jp/info/rules/pdf/4.pdf
使用料規定の抜粋を見ると、こう書いてあります。

(1) 公演 1 回ごとの使用料は、次のとおりとする。
① 入場料がある場合の使用料は、総入場料算定基準額の 5%の額とする。
ただし、定員数に 5 円を乗じて得た額あるいは 2,500 円を下回る場合には、そ
のいずれか多い額を使用料とする。
② 入場料がない場合で、かつ公演時間が 2 時間までの場合の使用料は、定員数に
4 円を乗じて得た額あるいは 2,000 円のいずれか多い額とする。
公演時間が 2 時間を超える場合の使用料は、30 分までを超えるごとに、公演時
間が 2 時間までの場合の金額に、その 25%の額を加算した額とする。

http://www.jasrac.or.jp/info/rules/pdf/4.pdf


以下何ページにも渡って「総入場料算定基準額」の計算方法の説明が延々と続きますが、雑にまとめると所得税計算するための源泉額の計算法みたいなもんです。
それより公演時間が伸びる方がよっぽど金額が増えるのでさっさと公演を終了させたい運営の気持ちになるですよと思いました。(8/25追記:入場料が無い場合だけですね、自分で雑にコピペして誤読してるのバカすぎた。)
ともあれ、ざっくり言うと総入場料に対して一体の割合を乗じたものがJASRACに対して支払う使用料だということです。


これはチケスト社長氏の説明とは食い違っています。
ではなんであのブログにはあんな奇怪な説明が書かれてしまったのか?
後続の説明には「定員」「入場料」の定義があり、続けて「総入場料算定基準額=入場料 x 定員数 x 80%」という基本ルールが示されます。
さっきのシミュレータのページには「算術平均」という言葉はなかったので、おそらくチケスト社長氏はここも読んだのではないかと思います。

入場料とは、演奏会等の主催者が、いずれの名義であっても、入場者から音楽の著
作物の提示について受ける対価(消費税額を含まないもの。以下同じ。)をいう。この
対価に等級区分がある場合は、その算術平均額を入場料という。

http://www.jasrac.or.jp/info/rules/pdf/4.pdf


賢明な読者ならお分かりとは思いますが、「チケットの算術平均額」とだけ日本語で言った場合、その意味するところには揺らぎがあります。
もちろん、チケスト社長氏の解釈も場合によっては正しいでしょうが、別の解釈として、「チケットの値段を割り当てられた人数で重み付けした加重平均」である可能性があります。*1
(8/25追記:脚注の方が分かりやすいからちゃんと読んでね。算術平均であっても何を平均するのかそこが曖昧だよって話です。)
これならば、実際のチケット売り上げ額の総計は「平均額 x 人数」と等しいですから、シミュレータも最初の説明に対して直感的に合致した公演使用料を計算できることになります。
また、総額に対する比率で使用料が決まる以上、どんなに値段に種別を増やしても追加で儲かった分に対しても同じように比率で使用料を取られるだけのことなので、
これを理由に傾斜をつけた販売が出来ない、ということにはまったくなりません。


もうちょっと穏当な日本語で「観客一人当たりのチケット平均額」とでもすれば曖昧性が排除できたので、その点に関してはJASRACの説明は雑だったかなとは思います。
とはいえ、規定をきちんと読んで真っ当に判断できれば分かる程度のことを勝手な思い込みで嘘記事を書き、結果的にそれが拡散して風説の流布に加担したのですから、チケスト社長氏にも非があると私は思います。

まぁ、チケット転売をした人間が得た利益について

仮に出品者が差益を得たとしても、差益はスタドリエナドリやライブグッズ、OFAのDLC
会場へのお花などでアーティストに還元されていきます。
売る人も買う人も、お互いがファンなんです。

http://ashikagunso.blog.jp/archives/54991629.html

とかいう脳みそスポンジお花畑ロジックを展開するアイマスPなので、「平均」という言葉の意味するところがきちんと理解できなくても致し方ないかもしれませんね!
会場へのお花がアーティストへの還元って…本気で言っているのか…?


免責:ひょっっっっっっっっっっっとするとこの記事が書かれた2015年時点では(8/25追記:現在でも)チケスト社長氏の説明が正しかった可能性はゼロじゃないかもしれません。
常識的にあり得ないと思うけどもしそうだったらごめんね。

チケスト社長氏に釣られた人たち

twitter.com

ひえー。是非このブログを読んで欲しいですね。

冷静な論客ぶってますけどアイマスに関わるとソースを確認する能力が失われるんですかね?思考停止ブーメランだ!
まぁ私は中里氏にはブロックされているのできっとこのブログが届くことはないんでしょうけど!

JASRACの使用料がそんなに興行主のネックになってないんじゃないかなーというデータ

とはいえ、演奏にかかる使用料が儲けに対する割合で決まるなんて十分守銭奴的だ!という見方もあるかもしれません。
別にこれ以上JASRACの肩を持つ義理もないのですが、ちょっとデータが見られることに気がついたのでついでに触れておきます。


冒頭に上げた転売NOの呼びかけをしている団体に一般社団法人 コンサートプロモーターズ協会
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会:ACPC
というのがいます。この団体は「ライブ市場調査データ」というのをWebで公開しています。
http://www.acpc.or.jp/marketing/
直近の2015年のデータを見てみましょうか。
http://www.acpc.or.jp/marketing/kiso_detail.php?year=2015

末尾部分の「市場規模」について抜粋すると、

1. 総売上額
318,634,672,225(115.9%)
(中略)
3. 著作権使用料総額
3,506,619,477(124.3%)

http://www.acpc.or.jp/marketing/kiso_detail.php?year=2015

なんと、総売上に対して著作権使用料はたかだか1.1%しか占めていないのです!
1.1%がちょっと増えたぐらいで商売が破綻するとは思えないし、そもそも著作権使用料は(JASRACがまともに機能していれば)関係者に分配されるので、
当然一部はアーティストやレコ社などの興行主サイドに戻ってくるわけです。
全然守銭奴じゃない、と思ってよさそうですね!?
























…はい、いま書いてある通りに納得した人。
自分のリテラシーを疑った方が良いですよ。


まず、「売上」と「使用料」を直接比較して商売の成否を判断するのが間違いです。
他には当然会場の使用料やアーティストへのギャラ、プレイガイドのシステム利用費、運営するための人件費等が発生します。
「売上」にグッズ販売などがどの程度どういう基準で含まれているのか定かではないですが、こういったものは当然原価があります。
売上ではなく、利益に対して特定のコストがたかだか数%なら(今回の文脈では)無視してよいといっていいレベルですが、売上との比較では何も分からない、と言うべきでしょう。


さらに、この調査書をよく見ると、「ジャンル別動員数」というものがあり、これは国内では

ロック・ポップス 28,845,012(109.7%)
謡曲・演歌 1,419,097(106.1%)
ジャズ・フュージョン 58,543(73.8%)
クラシック 358,405(85.8%)
パフォーミングアーツ(ミュージカル、バレエ、オペラ、レビューショー、伝統芸能、お笑い、演劇、舞踊、ダンス、フィギュアスケートなど) 4,206,226(105%)
その他(握手会、トークイベント、展覧会、スポーツ、ゲーム大会など) 4,586,138(183.6%)
計 39,473,421(114%)

http://www.acpc.or.jp/marketing/kiso_detail.php?year=2015

という分布になっているそうです。
これら全てのジャンルの総計が「総売上額」であるわけですから、その中には当然JASRACにビタ一文払っていない公演もたくさん存在すると考えられます。
動員数単位で見れば「ロック・ポップス」がかなりの割合を占めるので大勢には影響なさそうにも思えますが、それでも総動員数に対して73%です。
他のジャンルでもJASRACのお世話になるものはもちろんたくさんあるでしょうが、とにかく比較している総売上額もある程度割り引いて考えなければいけないということはこのページから十分推察できます。


とはいえ、ここまでの議論を加味したとしても、総論としてはチケット総額に対して5%というJASRACの使用料は高いとは私は思いませんでした。
この辺は読者の判断に委ねます。
私が本当に言いたかったことは、もっとソースを読んでまともに判断できる能力を身につけろ、ということです。
(8/25追記:一次ソース以外にももっといろいろ調べる方がもっと良いし判断が正確になるぞ。)


あとチケストとかいうチンピラ企業やそいつの言う事を真に受けて自己正当化しているテンバイヤーや転売常習オタクどもは死後さばきにあうぞってことです。
(8/25追記:ここは取り消さずに残します)

じゃあなんでチケットの価格別販売が日本では行われてないの?

知らないよ。
この記事を書く為にいろいろ調べて回ったけどそれを示唆するものはなかったです。
なんかもっとまともな理由が分かる人が居たら教えてください。


(8/25追記:この部分については依然として釈然としていません。
最初の投稿時には趣旨が発散するので書きませんでしたが、実態として席種が分かれている公演だってたくさんあります。
元々のチケスト社長氏のブログ趣旨は「少数のプレミアムチケット設定が難しい」という話なので、
その点に関してはJASRAC使用料の実態のみで説明がつけられるとは思いますが、一般にアニサマのような大規模公演で
穏当にチケットの値段に傾斜をつけることのハードルにはなっていないはずです。
全てをJASRACの責に帰するのは単純化にすぎる、という煮え切らないなんかありがちな結論になるように思います。)


こちらからは以上です

*1:変な言い方だけど、「チケット種別」ではなくて、発行される全てのチケットの値段の平均と言っても意味は同じです。